「あしたはひとりにしてくれ」
という名の小説を読みました。久々の読書記事だよ。
- 作者: 竹宮ゆゆこ,かわかみじゅんこ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2016/11/10
- メディア: 文庫
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作者はアニメファンならピンと来るかもしれないあの人。そう、「とらドラ!*1」や「ゴールデンタイム」を書いた竹宮ゆゆこ先生だ。
※この記事はネタバレを含みます。
雰囲気と展開
どことなくラノベ臭
最初に抱いた印象は「めっちゃラノベっぽい」。
「まぁ有名作はラノベやし、そういう作風なのかなー」と思いつつも序盤は読み進めるのが苦痛だった。
なんていうの、描写が具体的すぎるというか、主人公のモノローグが厨ニ的というか、キャラクターの性格がいかにもフィクションの典型というか、とにかく序盤は読みにくかった。
中盤に差し掛かるにつれて慣れてきて、自然と物語に入り込んでいけたので慣れの問題なのかも。ラノベ読み慣れてる人ほどすんなり読めそう。
序盤微妙、中盤最高、終盤もやもや
あらすじは、平凡なようで(平凡だからこそ)闇を抱えた高校生が不思議な出会いから自分と向き合っていく葛藤劇って感じ。登場人物としての家族の比重が重いので、どこかホームドラマ(というかコメディ?)感も強い。
序盤のインパクトが結構猟奇的なので、凄いバイオレンスな感じをうけて「うえぇ…」と引き気味になってしまったのだけれど、本編は全然バイオレンスじゃないし肩透かしを食った感じはあった。
伏線として強烈にインパクトを残したかった著者の意思を感じるのだけど、さほど本編の核を担うシーンではなかったので読み終わってから「このシーン必要だったか…?」と疑問形。
物語に熱中できたのは中盤以降、主人公瑛人(えいと)がヒロインの謎の女性アイスと出会ってから。
瑛人の焦りや動揺がわかりやすく伝わってきて、非日常が連続していく様は精神が高揚したし、主人公の感情の波が自分の心のように感じた。
ただ終盤への収束の仕方が少々駆け足感があり、読み終わってしまうと「なんだそういうオチか」という中盤で高まった期待値の下降を感じてしまった。
おそらく物語のキーとなる「アイスの正体」「瑛人の心の成り行き」があまりにもあっさりと余韻もなく描かれてしまい、なおかつ物語の「その後」が語られておらず尻切れトンボな印象を受けるからだと思う。
結末の飽和した感じにとてもモヤモヤした。
どうせならハッキリしたハッピーエンドか、バッドエンドか、回想か何かが欲しかったなぁ
魅力は主人公
最もこの作品で評価すべき点は、主人公瑛人のキャラだと思う。
一見すると瑛人は家族や友人にも恵まれた平凡、むしろ比較的幸せな環境にいる高校生。
しかし当人は「自分は幸せなのだから健やかであらねばならない」という呪縛を自らにかけ、内面に秘めた本来の自分を押し殺して窮屈に生きていた。
「幸せなふりをして生きる」「自分を偽って振る舞う」この彼の姿勢がまさに現代社会の多くの人々が抱える葛藤に近いのではないかと感じた。
かくいう俺も瑛人に共感できる感情が多くあり、彼と同じタイミングで彼と同じように心を痛めた。
読者が最も共感かつ感動できるのは彼の心の動きではないだろうか。
「誰もが無理をしている」
「平穏に見える人ほど内には様々なコンプレックスを抱えている」
「みんなギリギリの葛藤の中で生きている」
瑛人の作中での葛藤はそんなメッセージを秘めているような気がした。
ヒロインのアイスにも同じように渦巻く感情はあるのだが、何よりクライマックスまでほぼ「謎キャラ」というポジションを貫かなければいけなかったので、とにかく感情描写が少なくて共感しにくい。
正体が種明かしされた後では感情描写も見れるのだが、感動を誘うには種明かしがあっけなさすぎた節がある。
総評
感覚としては60点ぐらい。
俺が精神が不安定だったこともあり「自分の葛藤を代弁してくれそう…」とタイトルに期待したのが購入動機。
読み初めの印象と展開は「?」な部分がいくつかあったけど、とにかく主人公の心情を追っていくのが心地よい小説でした。
「幸せなはずなのに幸せじゃない」
こんな葛藤を抱えている人にオススメかも。