「小説の神様」
「小説が書きたい、小説家を知りたい」そんな想いで手に取った本です。
- 作者: 相沢沙呼
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/06/21
- メディア: 文庫
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さてさて今月最初の読書記事です。先月に読書ブームが来てたはずなのに、あら不思議。読みかけの本が山のように。
というわけで新年一発目に消化した読書がこちら。
雰囲気
本作のメインの設定は、主人公が高校生でありながらプロの、しかし売れない小説家であること。
そんな主人公が同い年の人気作家のヒロインと出会い合作をすることになり、ぶつかり、成長し、成し遂げていく物語。
小説家の苦悩を描くという点では斬新さもありながら、物語の展開は愛と勇気に溢れた王道そのもの。
主人公の内気で不器用な性格も、強気で儚げなヒロイン像も、高校を舞台にした設定も王道だ。
特徴としては、とにかく主人公の感情が様々な言葉で色鮮やかに表現され尽くしているところ。ただ感情を書き出すのではなく、心の内側から勢い良く際限なく溢れ出すように描かれているところだ。
地の文だけでなく、「」に挟まれた台詞も登場人物の感情がベッタリではなく、自然に適度に乗っていて、登場人物が浮かべる表情が身近に想像できてしまう。
凄い巧みな文章だ。
不思議なのは、王道の展開で先がぼんやりと読めるにも関わらず、気がついたら文字を追ってしまうこと。
揺れ動く主人公がどんな軌道を描いて着地するのか、それが楽しみでついつい物語の流れに乗せられていってしまう。
王道なのに飽きなくて、王道なのに心揺さぶられて、王道なのに既視感のない感動がある。
いや、王道だからこそ、なのかな。
そんな雰囲気の物語だ。
魅力
心に染み入るような感情表現
前述したが、とにかくこの物語の感情の満ち満ちていることと言ったら、もはや宝箱のような感じだ。
感情の宝箱。うん、いいかも。この表現。
言葉では上手く表現できない。つまり俺の語彙力が感動に追いつかないってだけなんだけど、、
とにかく読めばわかる。うん。読めば・わかる(強調)
なんていうのかな、主人公の感情がスッと心に染みこんできて、気がつくと自分が主人公そのもののような、そんな感覚。
部分的にはダイレクトな感情表現の連続で、少し冷静な人は引いて見てしまうかもしれない。
でもきっとどこかで引き込まれる。主人公の不安や葛藤は誰でも一度は味わったことがあるはずだから。
完璧な登場人物の役割分担
登場人物に無駄がない。それがこの小説の凄いところだ。
ほんとに無駄な登場人物が一人もいない。「なんでこの人いたんだ」みたいな人が一人もいない。
物語を彩るために、主人公を揺さぶるために、それぞれがそれぞれのいるべき立ち位置ですべきことをしている。役割分担ができている。
俺は特に主人公が所属している文芸部の面々、文芸部部長で主人公の見守り続ける九ノ里、唯一の後輩で主人公を尊敬し続けて疑わない成瀬秋乃。この2人が好きだ。
最後に必要なのは、願いと勇気
「願い」と「勇気」。
これがこの物語のキーワードというか、ラストワードな気がする。
主人公は何度も挫折する。何度も壁にぶち当たる。
俺は小説を書いたことがない。でも主人公の、小説を書く苦悩が胸を締め付けるように伝わってきた。
誰かに物語を届けたい。自分の想いを届けたい。力を授けたい。その一心で物語を綴るのに、報われない。届かない。売れない。
「小説に力なんてない」
主人公は諦めかける。絶望の闇に呑まれかける。
それでも最後には立ち上がる。
その過程で主人公は気付く。
「物語は、願いだ」
伝えたいことがある。
けれど、なにを伝えたいのか、うまく言い表せない。
言葉では足りない。言葉では説明できない。
この世界のどこかで、僕と同じように嘆き苦しんでいる人たち。
あらゆる人々へ、叫びたいことがたくさんある。
だから、きっと僕は物語を書くのだろう。
僕らの中には、誰だって物語がある。
そこに込められた願いが、いつか届くように、叶うようにと、僕らは物語を綴り続ける。(中略)
泣かないでほしい。今はとても辛くて、毎日のように泣いてしまうこともあるのかもしれない。それでも、いつか泣かないですむときが、きっとくるよ。
そのための物語を綴ろう。
そのための物語を送ろう。
心が潤って、凄く暖かい気持ちになった。
小説を書くことだけじゃない、全てに通じる答えを貰えたような気がする。
願ってもいいんだ、と思えた。
勇気を貰えた。
自分に足りなかったのは勇気だったんだ、と気付けた。
総評
点をつけるなら90点!!
うん、今回はかなり良い。
期待していた「小説の出来るまで」みたいなものは少ししかわからなかったけど、それ以上の感動と力を貰えた作品だった。
以前読んだ小説と比べて、言葉にできないもやっとしたものがいっぱいある。
俺が言葉で伝えきれないということは、それは直接この小説を読まないとわからないものがたくさんあるってことだ。
「要するにこういう話だったよね」とまとめられないような含みがいっぱいあるってことだ。
情緒的な感想をいっぱい書いたけど、一番の魅力はやっぱり、勇気を貰えることだと思う。
読み終わった後に「なんか頑張ろう」って思えるのがこの小説の凄いところだ。
だから、勧めるならこう言おう。
「自分が嫌いで、卑屈になっていて、不安で、自信がない人へ。
大丈夫だ。小説の神様がきっと君に勇気をくれる。」